散乱と干渉

分散と散乱と干渉

 

分散

同じ溶媒において光の波の速度が振動数によって変化する現象です。屈折率が波長により変化(異なる)現象をいいます。

短波長の方が屈折率が大きくなります。 

例)プリズムに白色光を通すと波長(屈折率)によって異なります。分散により虹ができます。 

 

 

散乱

一方向に進んでいた光が物質にあたり、様々な方向に広がっていく現象です。

光は物質の間を進む時、光の波長が物質の大きさよりも長いとすり抜け、
同程度かそれ以下だと散乱します。
チンダル現象は可視光が透明な溶液中で散乱することでおきます。

 

 

干渉

波の重ね合わせにより、光の強度が強め合ったり弱めあったりする現象です。

波同士の位相が一致(山と山)することで強め合ったり、異なる位相の波が一致(山と谷)して弱めあったりします。

偏光と旋光性

偏光と旋光性

 

偏光

光は様々な方向に振動する波です。単一の平面の振動面を持つものを平面偏光といい同じ大きさの振動数を持った左円偏光と右円偏光のベクトル和とみなすことができます。

 偏光とはある方向だけに振動している波

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旋光性(光学活性)

光学活性物質が入った溶液に平面偏光を通過させるとき偏光面を右か左に回転させる性質を持つ性質です。左右円偏光に対する屈折率の差に起因します。

・光の進行方向に向かって平面偏光を右に回転させる性質を右旋性(d,+)
・光の進行方向に向かって平面偏光を右に回転させる性質を左旋性(l,ー)

・平面偏光が光学活性物質中を通過した時偏光面が回転する角度を旋光度

・一定条件での旋光度を比旋光度

  温度 :20℃ or 25℃

  光線 :ナトリウムスペクトルD線

 

測定

光線:ナトリウムD線

 

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x:用いた光線の名前
t:測定温度
α:旋光度
l:試料溶液の層長
c:試料溶液の濃度(g/ml)

旋光分散

旋光度は照射する光の波長によって変化します。平面偏光あたりの波長の旋光度変化を記録したものを旋光分散スペクトル(ORDスペクトル)といいます。

 

円二色性

平面偏光を物質に照射したとき左右円偏光に対する吸収に差があると、ベクトルの長さに差が生じ合成ベクトルは楕円になります。そのような性質を円二色性といいます。左右円偏光ごとのモル吸光係数の差 または 楕円率の変化を表したものを円二色生スペクトル(CDスペクトル)といい、立体構造の同定に利用されます。

 

 

 

分子の回転・振動・電子遷移 各論

電子遷移

分子内の電子が低エネルギー状態(基底状態)と高エネルギー状態(励起状態)の間を遷移することです。この電子遷移を観測したものが電子スペクトルです。
分子は紫外可視光を吸収したり放出したりして電子遷移しますが、振動遷移や回転遷移にも影響するため、紫外可視吸光スペクトルは幅広くなります(幅広い範囲でピークが観測される)。

 一概に遷移するといっても分子軌道の性質によって分類される。

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紫外可視光領域で重要なのは π - π 、n - π遷移です。

これまでは基底状態から励起状態への遷移についてお話しました。

これからは励起状態から基底状態への遷移の話をしていきます。励起状態から基底状態へ遷移するときエネルギーは光(放射遷移)や熱(無放射遷移)として放出されます。

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蛍光とは励起一重項状態から基底一重項状態へ遷移する際に放射される光です。

リン光とは励起一重項状態から励起三重項状態へ無放射遷移して励起三重項状態から基底一重項状態に放射される光をいいます。

もっとよく知りたい方は

https://blog.hatena.ne.jp/aribabi/aribabi.hatenablog.com/edit?entry=17391345971621305860

 

振動遷移

分子には伸縮振動と変角振動の基準振動があります。分子の振動準位の変化を観測したものが振動スペクトルです。

伸縮振動

結合の伸び縮み(原子間の距離の変)
対称伸縮振動と逆対称伸縮振動に分かれる。

変角振動

結合の角度が変化する

*教科書によっては同じことでも表現が異なることがあります。

水と二酸化炭素の基準振動

変角振動

逆対称伸縮振動

対称伸縮振動

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赤外活性

赤外活性

赤外活性

 

二酸化炭素

変角振動

逆対称伸縮振動

対称伸縮振動

 

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赤外活性

赤外活性

赤外不活性

 

回転遷移


マイクロ波を照射すると分子の内部回転(結合軸まわりの回転など)がエネルギーを受け取ってより高速の回転状態に移るのが回転遷移です。これを観測したものが回転スペクトルです。

分子の回転でマイクロ波が吸収されるのは 双極子が電磁波の振動電場と相互作用するからです。 そのため、無極性分子はマイクロ波不活性となります。

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電子遷移 補填

リン光と蛍光

なぜ、蛍光よりもリン光の方が寿命が長いのか。

 

「蛍光」は同じスピン多重度の状態間での発光、「リン光」は異なる多重度の状態間での発光ということができます。

・蛍光とは励起一重項状態から基底一重項状態へ遷移する際に放射される光である。

・リン光とは励起一重項状態から励起三重項状態へ無放射遷移して励起三重項状態から基底一重項状態に放射される光をいう。

 

・スピン多重度

電子が自転しているとすると右回りと左回りの回転があります。これに+1/2と-1/2のスピン量子数(s)を対応させます。分子にある電子は通常対で存在しますが、その場合スピン量子数はゼロになります。2S+1 をスピン多重度といい、通常の芳香族化合物基底状態では S = 0 なので、スピン多重度は1となり、これを1重項状態といいます。

対になっている電子が同じスピン量子数をもつと(S=1)スピン多重度は3となり、このような状態を3重項状態といいます。

一重項状態から一重項状態への遷移(蛍光)は電子のスピンがそのままの状態で起こります(電子のスピンの変化がない)ので、非常に短い時間で変化が起こります。
それに対して、異なる項の間の遷移(リン光
)は電子のスピンが変化しなければならないため、本来禁制遷移です。そのため、スピンの反転が起こるのは確率的に低いです。この確率的に低い遷移が起こるためには長い時間が必要となります。つまり、リン光は蛍光よりも寿命が長くなります。

・禁制遷移
遷移が理論的に起こりえないものを禁制遷移といいます。たとえば、スピン多重度の異なる状態間の遷移などです。実際には異なる多重度の状態の性質がある程度混ざるために、確率的に小さいけれども遷移が起こることがあります。本来、禁制である三重項状態から基底状態(一重項状態)への輻射遷移であるりん光が観測されるのはそのような理由によります。

http://ene.ed.akita-u.ac.jp/~ueda/education/sentan/chemilumi/term.html#12

電磁波の性質

電磁波とは

波動性と粒子性の二面性をもち、真空での電磁波の速度は光速と等しく、2.9979×10^8m/sです。

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hはプランク定数

波長とエネルギーの関係

 

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http://shimaphoto03.com/science/emw/

主な電磁波の特徴 

γ・X線

物質透過作用が大きい

紫外線

電子遷移を起こす

可視光線

赤外線

振動エネルギーが関与

マイクロ波

回転や電子スピンに関与

ラジオ波

核スピンエネルギー

分子の回転・振動・電子遷移

 原子や分子に電磁波を照射することでその電磁波のエネルギーに相当するエネルギー準位の遷移が起こります。つまり、原子や分子の回転エネルギー、振動エネルギー、電子エネルギーが変化します。
この性質を用いて様々な機器分析が行われています。

 

測定法

原理

できること

電磁波

紫外可視吸光度測定法

共役二重結合が紫外可視光を

吸収する

二重結合の

確認

紫外

可視光

蛍光光度法

蛍光物質に特定波長の励起光を照射して放射される蛍光を測定

蛍光物質の

定量

原子吸光光度法

基底状態の原子の光の吸収を

測定

無機金属の

定量

旋光分散・円二色性

旋光・偏光

光学活性物質

赤外吸収スペクトル

赤外線が試料を通過するときに吸収される度合いを波数について測定

測定の補正には

ポリスチレン膜を使用

官能基の

確認

赤外線

核磁気共鳴スペクトル

特有のラジオ波に共鳴して低から高エネルギー状態になった核スピンのラジオ波の吸収を測定

プロトン

状態

ラジオ波

X線結晶構造解析

X線を照射して得られる

回折斑点を解析して単位格子に含まれる原子の位置を特定

分子の

立体構造

X線

粉末X線回折

粉末資料にX線を照射して電子を強制振動させることで解析

結晶多形

の同定

 

 

因みに、電子遷移、振動遷移、回転遷移の遷移幅についての問題を出されることがあります。

電子遷移の幅は  電子遷移 > 振動遷移 > 回転遷移 です。

遷移とかエネルギー準位についてはこちら

http://www.st.hirosaki-u.ac.jp/~jun/mhp0603/mhp0603_33.html

 この解説の中でのエネルギーは不連続というのは

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左側の階段分布のようにデジタル的な飛び飛びという意味の不連続ということではなく
右側のようなピークと最低値の間は曲線であり正規分布的な飛び飛び(不連続性)を意味します。

 

電磁波の吸収、放射の測定

透過率と吸光度

電磁波の吸収の度合いは電磁波の強度の変化で表されます。強度I0の入射光が試料溶液を通り強度Iの透過光になります。 I / I0=透過度t 、%で表したものが透過率Tとなります。吸光度Aは試料の吸収の度合いを表したものです。

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入射光と透過光の関係

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 Lambert-Beerの法則

溶液の吸光度はその光路の長さよび(層長)と濃度に比例するという法則です。吸光度Aが大きければその試料溶液はその波長の光を多く吸収することを意味します。
吸光度は、溶液の厚さl(単位はcm)と試料溶液の濃度c(単位はmol/L)によって変化します。

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*吸光度は 温度と波長 に依存して 溶液のpHや溶媒によっても変化します。
*モル吸光係数εは、試料溶液の溶質によって決まる定数です。

 濃度cを1mol/L,層長1cmとしたときの吸光係数をモル吸光係数といいます。

 また、濃度cを1w/v%(1g/100ml)で層長が1cmとしたときの吸光係数を
 比吸光度 E1cm1%といいます。これらは溶質(物質)に固有の値をとります。

 


例題

Q

1.3mg/mlのBSA溶液を用いて吸光度を測定したところ、280nm付近の波長に極大吸収をもつ吸収スペクトルを示した。

この時の280nmにおける吸光度は0.650(セル長=1cm)であった。BSAの比吸光度を算出せよ。

 

A

比吸光度は1w/v%(1g/100ml)の濃度の溶液で層長1cmでの吸光度
のことなので

1.3mg/mL = 0.13w/v%

 

吸光度0.650なので

 

1 w/v% :0.13w/v% = x   :0.650

                        x     = 5.00

 

比吸光度は5.00


 

あと大切なのは

 A=εclは、濃度一定ならば、εcが一定であるからA=(εc)lで、吸光度は厚さに比例します。これをランベルトの法則といいます。
層長lが一定ならばA=(εl)でcあり、濃度に比例することになります。
これをベールの法則といいます。

赤字の部分をきちんと区別して覚えておきましょう。

 

実際にはどのように使うのか?
精製タンパク質の濃度を知る:分光分析によるタンパク質定量 : Got it! Lab.

 

 

結晶場理論と配位子場理論

結晶場理論と配位子場理論

ほぼほぼ聞かれることは少ないと思います。

しかし、出されたら悲しいのでさらっと把握しておくと良いでしょう。

 

結晶場理論では簡単に言うと

中心金属と配位子の間の結合を重視せずに金属と配位子の相対位置を重視します。

https://www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/chemistry/cfb01.pdf

 しかし、これだとd軌道の分裂の様式を正しく説明することができますが、その分裂の大きさについては説明できません。
結晶場理論からは同じ
価数の陰イオンであれば、同じ分裂の大きさになるという結論になるはずですが実際には分裂の大きさは同じ価数であっても配位子の種類に依存してI < Br < Cl < F のようになることが知られています(分光化学系列)。

そこで配位子場理論により分裂の大きさを正しく計算するに
分子軌道を考慮することが必要です。