電子遷移 補填

リン光と蛍光

なぜ、蛍光よりもリン光の方が寿命が長いのか。

 

「蛍光」は同じスピン多重度の状態間での発光、「リン光」は異なる多重度の状態間での発光ということができます。

・蛍光とは励起一重項状態から基底一重項状態へ遷移する際に放射される光である。

・リン光とは励起一重項状態から励起三重項状態へ無放射遷移して励起三重項状態から基底一重項状態に放射される光をいう。

 

・スピン多重度

電子が自転しているとすると右回りと左回りの回転があります。これに+1/2と-1/2のスピン量子数(s)を対応させます。分子にある電子は通常対で存在しますが、その場合スピン量子数はゼロになります。2S+1 をスピン多重度といい、通常の芳香族化合物基底状態では S = 0 なので、スピン多重度は1となり、これを1重項状態といいます。

対になっている電子が同じスピン量子数をもつと(S=1)スピン多重度は3となり、このような状態を3重項状態といいます。

一重項状態から一重項状態への遷移(蛍光)は電子のスピンがそのままの状態で起こります(電子のスピンの変化がない)ので、非常に短い時間で変化が起こります。
それに対して、異なる項の間の遷移(リン光
)は電子のスピンが変化しなければならないため、本来禁制遷移です。そのため、スピンの反転が起こるのは確率的に低いです。この確率的に低い遷移が起こるためには長い時間が必要となります。つまり、リン光は蛍光よりも寿命が長くなります。

・禁制遷移
遷移が理論的に起こりえないものを禁制遷移といいます。たとえば、スピン多重度の異なる状態間の遷移などです。実際には異なる多重度の状態の性質がある程度混ざるために、確率的に小さいけれども遷移が起こることがあります。本来、禁制である三重項状態から基底状態(一重項状態)への輻射遷移であるりん光が観測されるのはそのような理由によります。

http://ene.ed.akita-u.ac.jp/~ueda/education/sentan/chemilumi/term.html#12